僕が本格的にジムに通い始めたのは、25歳の時でした。鏡に映る自分の頼りない体にコンプレックスを抱いていた僕は、筋トレにのめり込むことで、少しずつ自信をつけていきました。しかし、トレーニングを始めて一年ほど経った頃、新たな、そしてより深刻な悩みが僕を襲いました。シャワーを浴びるたびに、排水溝に溜まる抜け毛の量が、明らかに増えていたのです。「筋トレをするとハゲる」。インターネットで検索すると、そんな言葉が嫌というほど目に入ってきました。テストステロンの増加が原因だという、もっともらしい解説を読み、僕は絶望的な気持ちになりました。ようやく手に入れかけた自信は脆くも崩れ去り、ジムで汗を流していても「このトレーニングが、僕の髪を奪っているのかもしれない」という恐怖が頭から離れませんでした。一時は、大好きだった筋トレをやめることさえ考えました。しかし、どうしても諦めきれなかった僕は、ネットの поверхност的な情報ではなく、専門書や医学論文を読み漁ることにしました。そこで知ったのは、僕が信じていた「常識」が、実は大きな誤解に基づいていたという事実でした。AGAの本当の原因は、テストステロンの量ではなく、DHTという別のホルモンと、それを生み出す遺伝的な体質にあること。そして、通常の筋トレが、その遺伝的素因に決定的な影響を与えるわけではないこと。この事実を知った時、目の前の霧が晴れるような感覚でした。僕が戦うべき相手は、筋トレではなく、不確かな情報に振り回される自分自身の心だったのです。それから僕は、トレーニングとの向き合い方を変えました。オーバートレーニングを避け、十分な休養を取る。プロテインだけでなく、髪に良いとされる亜鉛やビタミンを意識した食事を摂る。そして何より、抜け毛一本一本に一喜一憂するのをやめました。今、僕は自信を持ってトレーニングを続けています。髪の状態が劇的に改善したわけではありません。でも、正しい知識を得たことで、僕は抜け毛への恐怖から解放され、筋トレという最高の趣味と、揺るがない自信の両方を、再び手にすることができたのです。
抜け毛に怯えた僕が筋トレと自信を取り戻した話